私好みの新刊 20222

『ぼくのいしころ』(ちいさなかがくのとも10月号)

 中村文/ぶん 齊藤槙/え 福音館書店

 子どもたちが初めて石に興味を持つのは、美しい石に出会った時が多い。そ

の石も水にぬれた時がより美しく輝く。こういう石の良さを簡単な絵本で表現

した本が出た。今は採集場所もだんだん少なくなってきているので川原がもっ

とも適切な場だ。河原には上流部から流れてきた岩石のかけらや地層から出て

きた石ころが適度に丸くなって集まっている。地層には、はるか昔の海底生ま

れのカラフルな石もある。そのような川原を普段から見つけておくといい。必

ず大人と行くことを条件に石採りは近くの川原を推奨したい。

さて、絵本のページをくると場面は川原に設定されている。川原の水際では

カラフルな石がいっぱい見える。この本の絵はちょっとカラフルが目立つ絵だ

が絵本なのでまあよいとしよう。子どもが川原の石を拾うと水の中に数々の石

がきらめく。ピカピカした黒い強そうな石、ぐるっと緑の筋が付いた石、ゴマ

粒みたいな白黒点々の石、全体が赤い石とたくさんの石を拾い小袋につめてい

く。その小袋を持って意気揚々と家に帰ってみると・・あら不思議、川原での

つやつや石はなんとなく輝かない。どうしたんだろうと思案にくれる。こすっ

てみたりお日様に当ててみたりいろいろ試すが先の美しさは出て来ない。子ど

もが思案に暮れてお母さんに話すとおかあさんは

「かわには なにが あったっけ」とつぶやく。ぼくは

「おみずが あったよ。そうだ、いしころに おみずを あげよう。」

と思いつく。そこで、拾ってきた石の一つ一つに水で濡らしてみた。そうする

と石ころはキラキラしてきた。やっぱり水だったのだと気が付く。河原から袋

に入れて持ち帰る時石ころは乾いてしまっていたのだ。

再びキラキラした美しい石が蘇った。青や緑の石のグループ、赤っぽい石の

グループ、白と灰色っぽい石のグループと並べてみた。みんな輝いている。

でも、しばらくすると・・また元のように輝きが無くなってくる。さてどうす

るか。ひょいと棚の上のビンに気が付いた。ビンに水をいれてその中に石を入

れればいいのだ。

このように、この絵本は石は水につけると美しく見えることを教えている。

                                    202110月  400 

『ホタルイカは青く光る』  阿部秀樹/写真と文  小学館

話としてしばしば耳にするホタルイカの美しい写真集が出た。著者の阿部秀

樹さんは水中写真家として多くの著作がある。その阿部さんがホタルイカの魅

力にひかれ30年もかけて富山湾へ撮影に出かけられたという。それだけにど

の写真も迫力いっぱいである。

 最初に静かな富山湾が出る。ページをくると青みがかった光が点々とついた

ホタルイカが登場する。顔の部分で光っているのかと思っていたが、体全体に

突起がありその突起の先で光っている。まるで、ホタルイカ全体がシルエット

になって浮かびあがっている。

次に、美しい春の富山湾が出る。背景の山々はまだ雪をかぶっている。その

富山湾は水深が1000mもあり深海の水温は低いが浅い所は対馬暖流が流れてい

て温かいそうだ。そんな環境にホタルイカは生息する。春になると待ち構えて

いたように夜明けにホタルイカの漁が始まる。網の中の水面が青い光が漂う。

ホタルイカは網いっぱいである。大漁の風景が写し出される。ホタルイカはす

ぐに大きな窯でゆでられると桜色に変身する。富山の「ふるさとの味」として

出荷されていく。すみそをつけたホタルイカはほんとに美味しそう。

 さて、場面は再び生きたホタルイカに代わる。ホタルイカの触手の先だけが

青く光っている。「蛍イカ」と名前が付けられているが、昆虫の蛍とは発光す

る場所が違う。ホタルイカはふだんは深海に棲んでいるようだが、メスは産卵

のため4,5月頃になると水面に出てくる。浅い場所で集団で産卵する不思議な

習性を持つ。しかも、その産卵の仕方も特異だ。口の先にある細い糸状の粘膜

の中につぎつぎと送り出してくる。よくもこんな写真が撮れたものだと感心す

る。さて、この産卵を終えたホタルイカは元いた深海にもどれなくて海岸に大

量に打ち上げられるとか。産卵を終えたホタルイカは海岸でもがき、やがて力

尽きて死んでいく。海岸には大量のホタルイカの死骸が並ぶ。「身投げ」と言

われているように、ホタルイカはこんなはかない運命を背負っている。大量の

雪解け水が影響しているのだろうか。富山湾特有の現象のようだ。

最後に、生まれたての幼体の写真が出る。手足のあちこちで発光しているが

成長と共に数個所に集められるのだろうか。とにかく、写真が美しく、ホタル

イカの生活の様子もよく理解できる本である。    

                            20217 月  1,300

            新刊紹介2